今回は、コンテンツ制作におけるターゲティング(ターゲット設定)にフォーカスしながら「なぜ運営はファンがモヤっとするようなコンテンツを出すのだろうか?」について紐解いてみたいと思います。
本記事で扱うのはK-POPアイドルの中でも私がメインで応援しているStray Kids(以下、スキズ)が日本で活動するときのコンテンツになります。実はこの記事、2020年11月にスキズが『ALL IN』で活動したときに書きかけてお蔵入りしていたものです。笑
毎度ながら私はただのライター(エンタメ業界の人でもない)かつK-POPファン歴2年ちょいのオタクのため「またにわかがなんか言ってんな~~~」くらいの軽い気持ちで読んでいただけると幸いです。
ただ、もしかしたらこの記事を読むことで、毎回モヤッとしていた気持ちがすこーしだけ冷静に「ははーん、運営はそういう意図なわけね?」と思えるようになるかもしれません。もっとこういう視点で書いたほうがいいよ!マーケって実はこうだよ!などご指摘はTwitter(@aica_skz__)までお願いします。
はじめに:そもそもターゲティングとは
アイドルコンテンツのターゲットは誰か
タイトルにも使いましたが、ターゲティングとは、ターゲット設定とかターゲット選定のことです。もう少し詳しく見てみると…
ターゲティング(ターゲッティング)とは、市場の細分化(マーケットセグメンテーション)を行った後、その市場に対してターゲットを絞ってマーケティングを展開すること。
製品やサービスを市場にアプローチするにあたって、具体的な顧客層を選定することにより、製品のコンセプト、強み・弱み、競合との差別化等に有効なマーケティング戦略を立てやすくなる。
製品やサービスとありますが、さまざまなメディア(Web、テレビ、雑誌 etc)から提供されるコンテンツ(公式の動画、雑誌の写真やインタビュー記事 etc)もほぼ同様と思ってよいでしょう。K-POPアイドルの日本向けコンテンツはおそらく事務所というよりもレコード会社(スキズの場合、ソニーミュージック)の意向がかなり強いと思います。CDリリースや日本で開催されるコンサートのプロモーションの一環ですからね。ただ、JYPは大手で日本法人もあるので、まるっとレコード会社に投げるというのもなさそうですが……。
そのコンテンツを受け取るのはもちろん私達アイドルのファンです!もうちょっと分類してみると、
・既存ファン
・新規ファン(何見ても楽しい!わくわく!)
・中堅ファン(ある程度界隈のことは分かってきた)
・古参ファン(もはや親目線、でも運営には物申すわよ)
・掛け持ちファン(刺さるコンテンツがあったときは見るよ~)
・元ファン(私生活忙しくて離れちゃった、他グル行っちゃった)
・潜在的ファン(ファンになる見込みのある層、たとえば「たまにTLで見かけて気になってるけど……」とかの人)
さっと書き出しただけでも「ファン」って結構幅広い層を包括している気がしますね。
コンテンツの要はターゲットの心を動かすこと
さて、企業がアイドルファン向けのコンテンツを作るとき、初めに何を考えるでしょうか。本当はもっと細かいですがざっくりと。
・何を作るか?(音楽、動画、写真、インタビュー記事)
・なぜ作るか?(CDを売るため、コンサートの集客のため、FC入会者を増やすため)
・誰に向けて作るか?(K-POPファンの主力層である若い女性、コアなファン向け、新規ファン向け)
・どうやって売るか?(実店舗、ネットショップ、SNS)
・どうやって宣伝・広報するか?(SNS広告、駅広告、女性ファッション誌や経済誌の特集、テレビやラジオ出演)
・目標数値は?(○万PV、○万再生、○万インプレッション、○個販売)
最後の「目標数値」の達成を目指すにあたって、一番重要かつ時間をかけるべきなのはどれでしょう?おそらく、
誰に向けて作るか?(=ターゲティング)
だと思うんですよね。さきほど挙げたとおり「ファン」と言っても切り口はいろいろ。もうちょっとどの層にフォーカスするか考えたほうがよさそうです。
もちろん商品を売る場合と、動画を出して再生数を稼ぎたい場合とでは目的も手段も違うのでケースバイケースではあります。しかし、魅力的なコンテンツを作っても見られない・売れない原因はターゲット設定の誤りだと言い切ってもよいでしょう。このときに欠落しているのは「ユーザー視点」です。
よくあるのが、「幅広い層に見てもらいたい!」という思いからターゲットを広く取って“誰にも刺さらないもの”になってしまうケースです。人間って不思議なもので、万人に当てはまるものにはあまり惹かれないんですよね。これは万人に当てはまるもの=自分とは関係ないと捉えるからです。バズるものには必ずどこかにユーザーが「あ、これ自分のことだ…!」と思える部分があります(「自分事」と言ったりします)。ユーザーは目に入ったコンテンツが自分事だと感じた瞬間心が動いて、何らかの行動を起こします。
一方、あまりにも特殊すぎるターゲット設定をして、コアなユーザーに刺さったけど数が少なすぎてビジネスとしては成り立たないケースもあります。とはいえ、コンテンツが飽和している時代なので、尖ったターゲット設定が成功につながる例も多いです。この「狭く深く」のターゲットを釣るにはユーザー調査の重要度がより高くなりますね。
ともかく、コンテンツはユーザーから関心を持って見たり聞いたりしてもらって、ときにはお金を出して買ってもらわないと意味がありません。つまりコンテンツ制作の要はいかにターゲットに置いたユーザーの心を動かせるかにかかっています。その行動を促すために、適切なターゲット設定が重要なんです。
(余談1)ペルソナ設定を知ろう
ターゲット設定よりペルソナ設定のほうが細かくユーザーを定義するので、ユーザーのニーズや課題を明確にするのに有用です。もし興味がある方がいたら目を通してみてください。
今さら聞けない「ペルソナ」とは。意味やマーケティングでの活用方法、作り方も解説!|ferret
たとえば、K-POPの男性アイドルグループの日本人のファンって、ボリューム層で言うと多分「10~20代、女性」だと思うんですが(参考記事)、これだとあまりにもざっくりしてますよね。学生も社会人もいるし、独身もいれば既婚でお子さんがいる・いないも混じっちゃってます。
それをもっと詳細に年齢・性別・家族構成・職業・趣味・名前などまで決めてリアルな人物像を設定するのが「ペルソナ」です。まあもうペルソナ設定は古いなんて話もあるので、そういうのがあるんだーくらいでよいです。笑
(余談2)カスタマージャーニーマップを知ろう
カスタマージャーニーマップとは、ユーザーの行動を可視化した図のことで、さきほど挙げたペルソナ設定をおこなったあとに作成します。たとえば、ユーザーが商品を購入するまでのプロセスとかが分かりやすいかもしれません。
ニーズ認識→認知→比較検討→購入→利用→再購入
をサイクルとして、ユーザーについて「どんな行動をするか?(例:フレックスで10時台の電車で通勤する)」「タッチポイントは?(例:通勤時にスマホでインスタをチェックする)」「どんな意識・感情を持ってる?(例:週末ショッピング行こうかな)」「理想の体験とは?(例:インスタでクーポンゲットして週末実店舗で購入する)」を書き出していきます。これを整理すると何が嬉しいかと言うと、自社が売りたいものに合わせてターゲットユーザーに適切なマーケティング施策を打ち出すことができるところにあります。
極端な例ですが、SNSで情報を得ている10代のK-POPファンをターゲットに設定したのに売り出したいアイドルの広告を新聞に出しても意味がありません。また、ネットショップを利用するユーザーが多いのに実店舗のみで売り出すのも最適な手段ではありません。そういったズレた施策に時間やお金をかけることなく、成果を出すためにカスタマージャーニーマップを作成することがあります。
【専門家解説】カスタマージャーニーマップの正しい作り方・手順(事例・雛形付き)
(余談3)企業活動には必ずゴールがある・再
私がTwitterでもよく言っている(最近あんまり言ってないか…)企業にとってこの活動の「ゴールは何か」「目標数値は何か」は今回の話でも大切です。
以前別の記事では「JYPおよびソニーミュージックがスキズの日本プロモーションでここまで費用をかけるのは、ある程度高めのゴール設定があるのではないか」というようなことを書きました。プロモーションの成果として、CD○万枚売上、FC加入○%増、YouTube動画再生収益○%増など項目は勝手な想像ですが必ず数値目標があったはずです。
これはCD・DVDを売るとき、ライブを実施するとき、広告・宣伝費を使うときに限らず、Webコンテンツ制作やテレビ番組制作といった企業活動でも当てはまります。無料で公開したコンテンツの先には必ず利益を出すための別の何かがあるはずです。自社で作るにも外注に委託するにも必ず制作費はかかるので回収する必要がありますから。
だから漠然とコンテンツを作って、なんとなく世に出してみるなんて考えられないですよね。昨今、こんなにもユーザーが多様化していて、コンテンツも飽和していて、いかに自社を選んでもらうかにしのぎを削る時代なのに。そんな適当なところに(多分)予算はつきません。
日本の主力ファン層は「アイドルに恋をしている」のか
やっと本題にたどり着きました。笑 ここからは実際のスキズのイル活コンテンツを例にいろいろ考えてみたいと思います。
Stray Kidsの強みと日本向けコンテンツの溝
やや語弊がある見出しではあるんですが…昨日出た動画に対するTLの反応を見ていると、スキズがリアコ*1向けのセリフや仕草をしていることに拒否感があるファンの方が想像以上に多いなと改めて感じました。それはスキズにそのコンセプトを消化できないという意味ではなく、「運営は私達STAY(スキズのファン)がこういう動画を本当に喜ぶと思っているのか?」「男性アイドルの相手は女性ファンと決めつけているのだろうか?」といった感想が多かったように思いました。
件のティザー動画。ヒョンジンくんは可愛い。
もう少し踏み込むと「スキズはこういうことをアイドルとしてやりたいと思っているのだろうか?」という疑問を抱いている人が多いと言い換えることができるかもしれません。自作ドルであるスキズの(特に本国活動の)特徴として、男女の恋愛に絡めた作品が少ない…というか、そういうコンセプトでは売ってないんですよね。失恋とかあるにはありますけど、明確に男女みたいなのって多分ないというか。だからなんとなく意に反したことをさせられてるのではと気になる気持ちは分かります。
とはいえ、ファンがアイドルの本音を聞けることはないので、イル活変なことさせられて嫌だとか面倒だとか万が一思っていても分かりません。勝手に決めつけるのもアレですし…。
雑誌を見てみても、韓国で出されるものは音楽活動そのものや個人にフォーカスしたものが多く、日本向けとなると、公式の写真や動画に彼氏感を出してみたり、ファッション誌では男女の恋愛に絡めた質問をされていたりします。あとまた別の方向性ですが、ブロマンス寄りにしたがる傾向もあるような。それってなんででしょうね?
よし、アイドルの本音を推察するのは難しい、であれば運営側の意向を推察してみようじゃないか!
ターゲット設定の根拠ってなんだろう
アイドルのコンテンツ制作の詳しいことは分からないので、私が仕事で記事を書くときのことをちょっとお話します。
まず、私が所属している会社はとあるWebサービスを運営していて、ライターである私の目的は「書いた記事からそのサービスに遷移させて新規登録させる」ことです。つまり「サービスに登録したいと思わせるにはどうするか」を考えるんですが、「サービスに登録してくれるユーザーってどんな人?」がやっぱり一番先にきます。これがないと、「なんかめっちゃ読まれたけど全然サービスに登録されないなー…」ということが起こりえます。(これはまだ良くて「読まれないし登録もされない☆」が一番の失敗)
「サービスに登録してくれるユーザー」を定義するとき、何を見ているかというと、やっぱり過去の数字や傾向です。「○○っていうテーマで記事を書いたとき、PVは少なかったけど登録すごい出たよね~」「◇◇っていうテーマ、PVもサービスへの遷移もあったのに登録がなかったから、◎◎っていう要素を加えてリライトしたら結構登録されるんじゃない?」とか。Web記事だとキーワード検索の順位やボリュームも参考にしますし、公式Twitterのツイートのインプレッションもよく見ています。
「なんとなくユーザーはこういう記事が好きだと思います!」なんて作り方はしません。名の売れたライターでもない、しがない会社員ライターの私は、博打をするんじゃなくて、根拠を持ってターゲット設定したがほうが結果を出しやすいと知っています。感覚だと振り返りもしづらいですしね。
まるっきり新規のサービスだと難しいので、類似サービス(≒競合サービス)の利用ユーザーを調査したり、お金を出してマーケティング会社から情報を買ったり、コンサル会社に入ってもらってターゲット設定するなんていう場合もあります。
で、話を戻して。なぜイル活は特にリアコっぽいコンテンツになりがちなのか?ですが…そもそも日本人のアイドルファンってアイドルに恋している(昔は「ガチ恋」なんて言いましたね)人が多いんですかね?もし多いとしたら、さっきみたいな反応をするスキズのファンは特殊な傾向だと思います?気になったのでTwitterでアンケートを取ってみました。
スキズのイル活コンテンツ、リアコ向けっぽい感じ…実のところ
— aica (@aica_skz__) 2022年5月24日
150票に満たないとは言え、ちょっと意外※じゃないですか?「好き」と「普通・どちらでもない」を足したら51%になります。ちょうど半数が否定的ではない(あくまで否定的ではないであって、好んでいるではない)と言ってもよさそうです。もちろん「苦手」が「好き」の倍以上選ばれているので、コンテンツの方向性はやはり正しくなかったという見方もありです。
ただ、さっき書いたとおり、当たり障りのない万人向けのコンテンツって、ある程度のクオリティでも大当たりはしないんですよね。箸にも棒にもかからないってやつです。だから実は「リアコ向け」というセグメントがされたコンテンツで、運営的にはまあまあ受けるラインを狙って作ったものだったのかもしれません。同時にNot For Me(私向きではない) と感じた方がいるのも当然の結果です。私が取ったアンケートの傾向だけだと、作る側としては結構難しいラインです。完全に駄目だったわけではなく、一定好む方もいた。ただし、半数の既存ファンのニーズを汲み取れなかった、と。
実際の制作背景にはきっと「前のイル活でこういうの結構反応よかったor悪かったよね」とか「他グループだけどこういうコンテンツ当たったんでスキズでもやってみる?」とかがあったと思います。そういう建設的な会議があってほしい。ソニミュほどの企業がなんとなくで作ることは考えたくないづらいのですが、もちろん「日本のアイドルファンってこう(≒男女の恋愛の話好き)だよね」という固定イメージがある可能性は捨てきれません。でも直近の数値を拾わずに予算ぶち込むなんてない…ですよね…?(問いかけ?)
※ツイートにも書きましたが、あくまで私のフォロワーさん(+検索で見つけてくださった方も若干いるかも)基準で偏りがあります。傾向を見るにはあまりにも数が少ないですし、私の年齢が30半ばなのもあって、10代の方は多分フォロワーさんにはほとんどいないんじゃないでしょうか。よかったら大手アカの方もやってみてください!笑
余談ですけど、LDHファンって実はリアコ多いんですよね。特に若いグループのファンだと接触イベントがあると固定ファンが増える感じがします。全体的に定価割れしているライブでも、前方の席や花道横の席の価格が異常なくらい高いのもその影響だと思います。意外でしたか?
昔に比べるとターゲティングが難しい理由
「TLだと否定的な意見しか見なかったのに『好き』が2割もいる。なんでだろう……」こう思ったあなたは、ティザーを見たとき「好き」「嫌い」「普通」どんな感想を持ちましたか?それをツイートしましたか?
SNSって、当然ですが自分の見てる範囲しか見えてないので、偏った意見がもっともらしい意見に思える場合があります。さっきのアンケートひとつとってもファンの中にはTwitterをやってない人ももちろんいますし、間違えて押した人、結果が見たくてなんとなくどれかを押した人もいるかもしれません。だから同じアンケートでも別の方がやると結果が違う可能性は十分あります。
それを踏まえて、SNSの特徴として
・声が大きい人の意見が多勢かつ正しく見える現象がある
・プラスの感情よりマイナスの感情のほうが伝播しやすい
・人の意見(特にフォロワー数が多かったり、自分がリスペクトしている人だとなおさら)で自分の意見が上書きされる
こういうのがあると思います。あ、分かりやすいように恣意的な表現をしましたが、意見を主張する方を悪く言いたいわけではありません。
「これツイートしてもいいかな」って気にして下書きに入れっぱなしのツイートって結構ありません?別に呟いたって罰せられるわけでもないし、自分の感覚で得た感想(犯罪行為や他人を傷つけるものの扱いはまた別ですが…)を制御する必要なんてないじゃないですか。私くらいの年齢の人だって「頭なでなでされてキュンとしたー!」とか言ってもいいですよね。逆に「あー…こういうの鳥肌立つぅ」とか率直な感想だってありです。
日本人は特に“自分の意見を主張する”のが苦手な傾向があって、大衆の意見に表面上は沿っている(悪い言葉で言うと同調圧力)ように見せかけるのがうまいんですよね。
だからコンテンツを作る企業的には「ちゃんとユーザーにアンケートを取ったり、ヒアリングしたりしたのにあんまり結果が出なかった」となったり、逆に「批判的な声が多く見えたのに再生数の伸びがすごいな…」みたいなことも全然あり得ます。ちょうど先日のラルクの座席変更の件もヤフーニュースでは炎上していたように見えて、実際は土日ともドームはほぼほぼ埋まって(表面上は)滞りなく2日間のライブを終えました。
そして何よりも、ユーザーそのものの多様化が昔に比べるともうほんとにすごい。セグメントできない。難しい。大変!(愚痴か)具体的に言うと、わりとTLでも見かけるし、K-POPファンが議論することも多いジェンダーについての扱いですね。作り手の年代によっては本当に理解ができない…というと甘えなので、考えが及ばない部分もあります。
正直30代半ばの自分でも「ああ、今の若い子ってこういう表現はNGなんだ…」と驚くことがたくさんあって、10代・20代の子たちをターゲットにしたコンテンツを作るのって想像以上に大変だなぁなんて思うことも。恋愛に対する質問をすることへの敏感な反応や、LGBTQに対しての認識がコンテンツを作る側とズレがあるなとも感じます。このあたりは大人(+おえらいさん)も感覚のアップデートが必要です。自戒も込めて。。
このへんないがしろにしていると、近い将来痛い目を見る気がしていて。特に自分と離れた年代をターゲットにしている場合は意識しすぎなくらい意識したり「現代の感覚でこれってOKなんだっけ?」と確認作業を挟んだりすべきだなと思います。
(余談4)実際リアコ層は主力なのか?
上でも参考でリンクした、K-POPアイドルファンへのアンケート結果をまとめている記事を少し引用させていただきます。
記事の中に気になる質問がありました。(n=214かつファン層の偏りに注意)
男性の推しのどこに惹かれる?(単一回答)
1位:パフォーマンス
2位:人間性
3位:音楽性
…
7位:容姿
容姿が意外と低い……!さらには
一番推している男性アーティストに対する感情(複数回答可)
1位:純粋にパフォーマンスがエンターテインメントとして素晴らしい
2位:人として尊敬している
3位:メンバー全員が醸し出す雰囲気や関係性に萌えている
…
8位:恋愛に似たときめき
このアンケートの場合、いわゆる「リアコ」感情を持った人は25%で8位。「やっぱり運営のターゲット設定間違ってね?」と一瞬思いますが、ここでさっきチラッと書いたLDHの話を思い出してください。CDを積んで接触イベントや1対1のオンラインイベントなどに参加する方の割合って、おそらくメンバーに対して恋愛に近い感情を持っている方が多い、つまりそういう層はお金を湯水の如く使う層に近いと言えませんか…?※お金を出す層がリアコだけと言いたいわけではありません。
さらに言うとお金を使ってくれるファン(≒熱心なファン)に育ちやすいので、リアコ向けコンテンツを出してリアコ予備軍が引っかかってくれたら万々歳とも言えます。「認知されたい」「名前を覚えてもらいたい」「私にだけ分かる合図を送って欲しい」こういう感情をファンが持ち、“推しのため”とお金を使ってくれるようになるのを企業は今か今かと待ち構えているのです……(創作)
女性をターゲットにしたコンテンツが男女の恋愛をテーマにしたものに偏りがちなのって、古い考えから来ているというのの他に、やはりその点がどうしてもあると個人的には思います。企業から見ると、たとえ数は少なくても絶対ないがしろにできない層なんです。今後その構図が変わることがあれば、コンテンツの方向性も自ずと変わるでしょう。
(余談5)世はプロセスエコノミー時代である
ここまで何度か「コンテンツが飽和している」「ターゲットが多様化している」と書いてきました。何を意味するかというと、費用や労力をかけて完成したコンテンツでも(昔のように)大勢の人に受け取ってもらえて、お金を稼ぐのは難しくなってきたということです。今の時代、完成品に付加価値をつけて差別化するのは本当に大変…。そこで注目されたのがプロセスエコノミー=制作過程の共有でお金を稼ぐというものです。
「プロセスエコノミー」という言葉(と概念)の発端は、けんすうさんの記事だったと思います。
とはいえ、真新しいものではなく、昔からイラストレーターさんがライブ配信でお絵描き過程を見せて投げ銭のようなインセンティブを受け取っていたり、アイドルのオーディション過程を見せてファンが有料で投票できるようにしたり、というのもそれにあたります。K-POPで言うと、ダンスプラクティス動画を出したり、ビハインド動画を出したりすごく充実していますが、それもこのプロセスエコノミーだなぁと感じます。
上で取り上げたスキズのソロティザー動画も再生で直接ユーザーからお金を得るという形でのマネタイズをしていないものの、ある意味完成版ではないティザーを使って完成品(この場合はMV)への期待値を高めたり、ファンの気持ちをつなぎとめたりと価値を生み出しています。また、再生回数が多くなればYouTubeから収益を得られたり、通りすがりに見て「何この子可愛い!」となった人がファンになってCDを予約してくれる可能性も秘めています。
なにより過程の共有は、ファンが一層推しに対して愛情を持つ効果があるようです。「こんな苦労を経て……!」とか「私達がこれからも支えるからね!」とかの気持ちは完成形だけを見るよりも過程も含めて見たほうが強くなるんです。
そんな感じでプロセスエコノミーは1記事書けるくらい語りたいこともあるんですが、ここではこのへんで。
(余談6)ファン心理を汲めない割と根深い理由
追記です。最初この記事書いたとき、この話書くのをすっかり忘れていて…。企業が事業をおこなうための資金はどこから来ているか?を考えると、ファン(≒購買層、消費者)の意向を知りながら沿えないことが往々にしてあることが理解できます。
株式会社であれば株主、子会社であれば親会社、投資を受けているファンドなどなど…ステークホルダやスポンサーの存在を無視できないというのが難しい点です。たとえば、この商品を絶対作品中に登場させなければいけないとか、偉い人の意向でファン層に合わないものを出さないといけないとか……。会社員として仕事をしている方でも程度の差はあれ、そういう状況って結構遭遇すると思います。
だからコンテンツを作るときにも「ファンが喜ぶもの」「より利益が出るもの」という考え方とは別軸で、「事業継続のための資金提供元の意向を汲む」というのも会社組織とは切っても切り離せないのです。
おわりに:結局運営ってファン心理に寄り添ってるの?
個人的な結論としては、寄り添う部分と添わない部分がある、です。
耳にタコくらい毎回言ってるのですが、企業活動ってボランティアではないですよね。アイドル事務所だって、レコード会社だって、上場していれば特に利益を出すことにシビアになりますし、将来の施策のためにどれだけ今稼がないといけないかという計画を立てて事業をおこなっています。そのためには多勢のファンの心理に寄り添って(正確にはニーズを読み取って)適切なコンテンツを制作して提供するのと同時に、マネタイズしやすい層へアプローチすることも重要になってきます。
どちらを重視するかは、そのときの状況や目標としている数値によるとしか言えません。特にイル活はレコード会社の意向が入ってくるので、本来の事務所の方針や韓国での活動と多少ズレがあるのは仕方ないですよね。良い悪いは別にして。
そしてよっぽど頭が悪くない限り、ユーザーの求めるものをまったく把握せずにコンテンツを作っている会社はないと思います。ただ、それを裏切ったものを出したり、斜め上のものを出したりしているように見える場合は、ファン離れのリスクも理解した上で何らかの意図がある(か極端ですが自分がターゲット層から大幅に外れてしまっている)と考えたほうが妥当かなーと。多くのリターンを得るためにリスクを背負うことは往々にしてあります。企業はそのリスクをどうコントロールすると一番損失が少なく、見込んだリターンを得られるか?を考えて動いています。
…とはいえアイドルファンがいちいちそんなことを考えながら推し活していると疲れるので、モヤッた場合にだけちょっと「なんか意図あんのかな~適当なんじゃね~の」とか考えてみたらいいかなと思います。
ほんの少し視点を変えるだけで見えるものが変わってきたり、じゃあこれは今自分には要らないやとか買わないでおこうとか判断もできます。Yesをためらう必要がないのと同じくらい、Noの表明はコンテンツの適正化(ファンを不快にするものの淘汰)にもつながります。なにより自分に合わないものが目の前に現れたとき、肯定・否定とは別軸で、その背景や意図を考えるクセをつけると楽しめる幅がちょびっと広がります。
自分の頭で考えて選択した結果には責任が伴いますが、「誰かがこう言っていたからこう」から脱却し「私はこう思うからこう」の先に見える景色はとてもクリアで鮮やかです。“他人にオールを任せるな”をモットーに推し活を楽しんでいきましょう!笑
長い長い記事をここまで読んでくださり、ありがとうございました。この記事があなたの考えるきっかけの一助になりましたら幸いです。
蔵出し:『ALL IN』日本プロモのターゲット設定を推測
1年以上前に書いてた部分、消すの勿体ないので再利用します。笑 もうほんとに古いのでただの記録です。雑誌やらWeb記事やらも全部さらいたかったのですが、まあまあ数が多かったので(ありがたいですね)日本の音楽番組+Abemaの対談を扱いたいと思います。動画は公式から出ているもののみ。
CDTVライブライブ(TBS、2020年10月26日放送)
『ALL IN』初パフォーマンスかつフル尺での披露となったCDTVライブライブ。こんな予告動画も公開されてうっきうきでしたね。笑
MUSIC STATION(テレビ朝日、2020年11月6日放送)
J.Y.Parkさんも出演と予告が出てざわつきましたが、実際は丁寧かつ正しい紹介動画とスキズのイメージアップのコメント出演でした。
Breakout(テレビ朝日、2020年11月12日)
動画はなし。トークゲストではないので短めの紹介。
シブヤノオト(NHK、2020年11月14日放送)
動画はなし。のっけから完全にコアファン向け。Twitterをうまくつかった企画でファンを盛り上げ、初めての神メニュー披露に期待も高まった。
Love Music(フジテレビ、2020年11月23日放送)
『ALL IN』のフルパフォーマンス。前回イルデのときに『My Pace』で出演し、インタビュー部分含めて好評だったと記憶しています。
AbemaTVの対談
「あのJ.Y.Parkと対談!」と銘打っていたため、会社やプロデューサーの素晴らしさについて語るのかなと思いきや、ほとんどスキズが喋ってるもので意外でした。ファンの意図を汲み取ってくれたのかなと思える作りに。
特に完全版の内容は、本国STAYさんも知らないような初出し情報もありかなり評価も高かった番組でした。
こうやって見てみると、“Stray Kidsの日本プロモーション”という枠としては同じものなのに、いろいろと異なったアプローチが取られていることが分かります。パークさんの名前を出してみたり、NiziUの先輩と出してみたり。もちろん番組の特性、パフォーマンスする楽曲の違いはありますが、おそらくそれ以前にメインターゲット、訴求内容の違いというのが企画段階で考えられているはずです。それが番組側の提案なのか、事務所側が関与しているかは外からは分かりませんが。
雑誌は取り上げませんでしたが、CanCam(女性ファッション誌、20代前半くらいまでがターゲット?)、日経エンタテインメント(ファン層広い。特集記事によって購買層かなり違いそう)とふたつの違った方向性の雑誌に特集されていたことも印象に残りました。載る雑誌によってインタビューのテーマは違いましたよね。
ここまでさまざまな形で日本の番組に出たことを思うと、もしかしたら事務所自身がスキズを日本で売り出す形を探る目的もあったのかなぁと思っています。まあ完全なる憶測です。
放送時間帯も披露尺もパフォーマンスかインタビューかで違うので視聴率で簡単な比較はできませんが、SNSの盛り上がりやリアクションなどは割と比較しやすいのではないでしょうか。
*1:本記事では、リアコを「アイドルに対して恋愛感情に近いものを抱いているファン」と定義している。ネガティブな意味合いはまったくない。